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STT‑MRAMの原理を徹底解説:MTJ構造とスピントルク制御のしくみ
STT-MRAMの原理を専門的に解説します。MTJ構造やスピン転送トルクによる書き込み・読み出しの仕組み、微細化に伴う課題、今後の応用可能性までを包括的に紹介しています。
STT‑MRAMとは?基本構造と位置付け
MRAM全体とSTT方式の違い
MRAM(磁気抵抗ランダムアクセスメモリ)は、電荷の代わりに磁気状態を利用して情報を記録する不揮発性メモリです。その中でもSTT(Spin-Transfer Torque)方式は、従来のToggle MRAMと異なり、磁界ではなくスピン偏極電流を用いて磁化状態を反転させる点が特徴です。Toggle方式は複数の配線が必要なため、微細化に限界がありますが、STT方式では単一のビット線で読み書きが可能なため、集積度を高めやすく、モバイル機器やIoT用途への展開が進んでいます。これにより、STT‑MRAMは次世代不揮発性メモリの本命として注目を集めています。
MTJ+1T構成概要
STT‑MRAMセルの基本構成は、MTJ(磁気トンネル接合)と1つの選択用トランジスタ(1T)によって構成されます。MTJは2層の強磁性体とその間に挟まれた絶縁層から成り、磁化方向の一致・不一致によりトンネル電流の通りやすさが変化します。これにより、0と1の情報を記録できます。トランジスタは、選択的に書き込み/読み出しを制御する役割を果たし、集積回路としての構成が可能です。1T‑MTJ構造により、従来のメモリセルと同等の面積効率を確保しつつ、不揮発性という特長を持つデバイスの設計が可能になります。
不揮発性、耐久性、高速性の優位性
STT‑MRAMは、電源を切ってもデータが消えない不揮発性を持ちながら、書き換え耐性にも優れています。通常のフラッシュメモリが約10の5乗回の書き換えに対し、STT‑MRAMは10の14乗回以上の耐久性を実現可能とされています。また、読み書き速度もDRAMに匹敵する数十ナノ秒オーダーであり、高速な動作が求められるキャッシュ用途などにも適しています。さらに、消費電力の面でも、待機時に電力を消費しないため、IoTやモバイル機器の省電力化に貢献します。これらの特性から、将来的なメモリ技術の主役として期待が寄せられています。
磁気トンネル接合(MTJ)の構造と役割
固定層/自由層/トンネルバリア構成
MTJ(Magnetic Tunnel Junction)はSTT‑MRAMの記憶素子として中核をなす構造です。基本的に、MTJは二つの強磁性層とその間に挟まれた絶縁層(通常MgO)が主構成要素です。上層の「自由層」はその磁化方向が書き込みによって変化するのに対し、下層の「固定層」は磁化が一定方向に保たれます。トンネルバリア層は非常に薄い絶縁体で、電子は量子力学的トンネル効果により通過可能です。自由層と固定層の磁化方向が平行(同じ方向)であればトンネル電流が流れやすく、反平行(反対方向)であれば電流が流れにくくなるため、この抵抗の違いが情報の「0」「1」として利用されます。
抵抗の変動とTMR効果
MTJの抵抗値は、自由層と固定層の磁化方向の関係によって変化します。これをTMR(Tunnel MagnetoResistance)効果と呼びます。具体的には、二層の磁化が平行なときに低抵抗状態(ロジック「1」)、反平行なときに高抵抗状態(ロジック「0」)となります。この抵抗の差を利用することで、読み出し時には外部回路が状態を高精度に識別できます。近年ではMgOバリアの採用によりTMR比(抵抗比)は200%以上に達することが可能となっており、これがSTT‑MRAMの信頼性と高速性に大きく貢献しています。このような抵抗変化の明瞭さが、STT‑MRAMの読み出し精度を支えています。
in‑plane vs 差動磁化(垂直p‑MTJ)
MTJには主に二種類の磁化配置があります。一つはin‑plane MTJ(面内磁化型)で、磁化方向が膜面と平行です。もう一つはp‑MTJ(垂直磁化型)で、磁化が膜面に垂直方向に配列されます。近年では、高密度実装や消費電力の低減に有利なp‑MTJが主流になりつつあります。p‑MTJは、スピン注入効率が高く、より少ない書き込み電流で磁化反転を実現できるため、微細化や3D構造との相性が良い点が注目されています。また、in‑plane型に比べて熱安定性が高いため、高信頼なデータ保持が求められる組込システムや産業用途に適しています。
スピン転送トルク(STT)の書き込み・読み出し原理
スピン偏極電流による磁化反転
STT‑MRAMの書き込み動作の中核は、スピン転送トルク(Spin‑Transfer Torque, STT)です。この現象は、スピン偏極電流を利用して自由層の磁化方向を制御するもので、電流がMTJを通過する際に電子のスピンが固定層により偏極され、自由層にスピン角運動量を伝達することで磁化を反転させます。従来のMRAMで使用されていた外部磁場に比べ、STTは微細構造への適応がしやすく、消費電力を抑えられる点で優れています。反転を起こすためには一定以上の電流密度が必要ですが、材料設計の工夫により書き込み電流の削減が進められています。
読み出し:MTJ抵抗センサ
読み出し動作は、MTJの抵抗値の違いを電圧信号として検出することで行われます。STT‑MRAMセルには比較的小さな読み出し電流が印加され、自由層の磁化方向と固定層の向きの関係によって、電流の通りやすさ、すなわち抵抗が変化します。この抵抗差をセンシング回路が検知し、「0」または「1」の論理値としてデコードされます。読み出し電流は、書き込み電流よりも桁違いに小さく、セルの磁化状態を変化させないレベルであることが重要です。高TMR比と精度の高いセンシング技術により、STT‑MRAMは高速かつ確実な読み出しを実現しています。
書き込み電流と微細化の関係
STT‑MRAMの微細化には、書き込み電流の削減が極めて重要な課題となります。微細プロセスではセル面積が縮小するため、高電流を必要とする構成では配線の電流容量がボトルネックになります。そのため、書き込み電流を小さく抑えるp‑MTJのような構造が注目されています。さらに、材料選定や自由層の磁気異方性の最適化、低スピン緩和材料の活用などによって、書き込み効率の改善が進められています。これにより、STT‑MRAMはより小型で省電力な構成を実現し、次世代モバイル機器やエッジデバイスへの展開が可能となっています。
STT‑MRAMの課題と実用展望
書き込み電流の高要求と熱揺らぎ
STT‑MRAMは高性能・高信頼性な不揮発性メモリである一方、書き込み時に比較的大きな電流を必要とする点が課題です。これは特に微細化が進んだプロセスでは深刻で、電流密度の増加により素子の信頼性や寿命への影響が懸念されます。また、熱揺らぎによる自由層の磁化状態の不安定化も問題となります。高温環境下では、保持特性が低下する可能性があり、産業用途や車載用途においてはさらなる熱安定性の確保が求められています。これらの課題を解決するために、磁気異方性材料の見直しや新しい構造設計の導入が活発に研究されています。
テスト・製造の技術的チャレンジ
STT‑MRAMの製造工程は、MTJの成膜・エッチング・アライメント精度など、高度なプロセス制御が要求されます。特にMTJの絶縁層であるMgO膜の均一性や、磁化方向の精密な制御は、製品の性能と歩留まりに直結する重要な要素です。また、書き込み動作のばらつきや、セル間干渉を抑えるための回路設計も求められます。さらに、製造後のテスト工程では、通常の半導体と異なり磁気特性の評価が必要となるため、専用のテスト技術や装置が必要です。これらのハードルを乗り越えるには、材料・プロセス・回路設計が一体となった開発体制が不可欠です。
STT-MRAM単体メモリの信頼性問題とFeRAMの優位性
近年、高速かつ不揮発性という特長から、STT-MRAMはCPU内蔵キャッシュやSSDのバッファメモリ、組込み機器での採用が期待されてきました。しかし単体メモリとしては、書き込みに要する大電流とこれに起因する高電流密度が解決すべき大きな課題です。特に、メモリとロジックを混載するチップではメモリアレイを分散配置できるものの、単体メモリではアレイが集中するため電流密度は依然として高いままです。結果として、E-migration(E-mig)などの劣化現象を招き、長期信頼性に深刻な影響を及ぼします。一方、FeRAMは書き込み時の消費電流が極めて小さく、電流密度問題を根本から回避可能であり、高電流による応力も発生しないため、E-mig耐性や熱ストレス耐性も非常に高く、信頼性上の懸念がほとんどありません。以上を総合すると、単体メモリ用途ではSTT-MRAMよりもFeRAMを選ぶほうが、安全性・信頼性の面で有利だと言えます。
RAMXEEDが提供するFeRAM製品一覧
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