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脈波センサにおける不揮発性メモリの活用とは:データ保持と低消費電力化の最前線
脈波センサの基本構造や測定方式、不揮発性メモリの種類と特長、そして両者を組み合わせたユースケースについて解説します。低消費電力かつ高信頼性なセンサ設計を目指す方に最適な内容です。
脈波センサの測定原理と最新技術動向
脈波センサは、心拍や血流の変化を捉えることでバイタル情報を非侵襲的に取得する技術です。主に用いられる方式は、光電式(PPG)とMEMS圧力式の2種類に大別されます。前者はLEDとフォトダイオードを用いて血液の光吸収変化を計測し、後者は皮膚表面の微細な圧力変化を検出します。さらに近年では、非接触型センサや柔軟基板を利用したウェアラブル用途など、センサ技術の小型化・高精度化が進展しており、医療・ヘルスケア分野での応用が急拡大しています。
光電式(PPG)と反射型センサの違い
PPG(光電式容積脈波)センサは、透過型と反射型の2方式に分類されます。透過型は主に指先や耳たぶなどに配置され、LEDから発した光が組織を透過し、反対側のフォトダイオードで受光する仕組みです。一方、反射型はセンサ本体に光源と受光部を同一面上に配置し、光の反射量を測定します。反射型は装着の自由度が高く、ウェアラブルデバイスに広く採用されていますが、外光や装着状態によるノイズの影響が課題とされます。
MEMS圧力式センサの応用と利点
MEMS(微小電気機械システム)圧力センサは、皮膚表面の微小な動きや圧力変化を高感度に捉えることが可能です。特に、カンチレバーやピエゾ抵抗素子を組み込んだ構造が一般的で、高速応答かつ低ノイズな脈波計測が実現されます。これにより、従来の光学式では困難だった暗所や体毛の多い部位での計測が可能になります。さらに、低消費電力・小型化の点でも優れており、スマートパッチや皮膚貼付型センサへの応用が進んでいます。
非接触方式の研究最前線
非接触型の脈波センシングは、赤外線、ミリ波、カメラ画像などを活用し、皮膚に触れずにバイタルデータを取得する技術です。近年は、AI画像処理と組み合わせた遠隔脈波計測が注目されており、病院や介護施設での常時モニタリング用途に期待が集まっています。特に、顔面や首筋の微細な色変化や動きから脈波を抽出する手法は、ストレスフリーなバイタル計測として研究が進んでおり、高齢者や乳幼児のケアにおいても重要な技術とされています。
不揮発性メモリの役割と技術概要
不揮発性メモリ(NVM)は、電源を切ってもデータを保持できる記憶素子であり、組込み機器やセンサにおいて極めて重要な役割を果たします。脈波センサにおいては、キャリブレーション情報や測定条件の設定値、ログデータなどを電源断後も保持する必要があるため、NVMが不可欠です。従来はEEPROMやフラッシュメモリが主流でしたが、近年は高速・高耐久なFRAM(FeRAM、強誘電体RAM)やMRAMなどの次世代NVM技術への移行が進んでおり、センサシステムの信頼性と省電力性の向上に貢献しています。
EEPROM/フラッシュメモリによるデータ保持
EEPROM(電気的消去可能読み書きメモリ)やフラッシュメモリは、広く普及しているNVM技術で、数十万回の書き換え耐性と比較的低価格が特長です。これらは脈波センサの動作パラメータ、ID管理情報、異常判定閾値などの保存に利用され、再起動時にも即座に必要情報を読み出すことができます。一方で、書き込み速度や書き換え耐久性には限界があり、高頻度データ更新を必要とする応用では他のNVM技術が望まれるケースも増えています。
FRAM/MRAMなど新世代NVM技術
新世代の不揮発性メモリには、FRAM、MRAM(磁気抵抗RAM)などがあり、各技術はそれぞれ独自の物理原理に基づいています。FRAMは高耐久性・高速性が特徴であり、低電力動作も実現可能です。MRAMは磁気抵抗の変化を利用し、高速で高信頼性なデータ保持が可能です。これらの技術は、センサデバイスのスマート化を推進する鍵として注目されています。
高速パルスによる不揮発性メモリ評価方法
不揮発性メモリの性能評価には、数ナノ秒単位の高速パルスを用いた試験が欠かせません。特に、FRAMやMRAMなどは書込み動作が短時間で行われるため、専用のパルスジェネレータや計測器が必要です。これにより、書込み遅延、保持特性、繰り返し耐久性などのパラメータを詳細に評価することができます。最近では、テストベンチに機械学習を導入し、パラメータ最適化や異常検出を行うアプローチも登場しており、製品開発の効率化に貢献しています。
脈波センサへの不揮発性メモリ統合のユースケース
脈波センサにおいて不揮発性メモリを統合することで、設定情報や測定データの永続的な保存が可能となり、装置の信頼性や使い勝手が大きく向上します。特に、医療・ヘルスケア用途では、再起動時に測定条件やキャリブレーション情報を自動復元できることが重要です。さらに、センサが低消費電力で断続的に動作する環境では、ログやアラート情報を安全に保存するためのメモリとして、FRAMやMRAMのような高速・高耐久なNVMが効果を発揮します。以下、具体的な応用例を紹介します。
設定値・ゲイン等のユーザ情報の保存(特許例)
特許文献(JP2014212796A等)では、脈波センサのゲイン調整値やフィルタ設定などのユーザ設定情報をEEPROMに保存し、電源断後も再利用可能とする構成が提案されています。これにより、使用者ごとの最適設定を保持し、装置を再起動しても即座に測定を開始できます。とりわけ医療現場や個別対応が求められる機器においては、これらの設定を不揮発性メモリに保存しておくことが、信頼性と利便性の両立に寄与します。
現場装置におけるFIFO/バッファ活用例
実装例として、脈波センサが出力する連続データを一時的にバッファ(FIFO)に格納し、不揮発性メモリに間欠的に保存する方式があります。このアーキテクチャは、消費電力を最小限に抑えつつ、重要なログデータの損失を防ぐことができます。特に、遠隔地やバッテリ駆動の環境下で利用される装置では、データ収集タイミングやメモリ書込タイミングの最適化が重要であり、NVMの選定と回路設計が大きな役割を果たします。
ウェアラブル機器でのNVMによるログ保存
ウェアラブルデバイスにおいては、長時間にわたる心拍・脈波データを常時記録するため、電力効率と記録信頼性の両立が求められます。FRAMなどの低消費電力NVMを用いることで、センサ動作中に発生した重要なイベントログやトレンド情報を随時保存することが可能になります。また、NVMはデータ保持性が高く、利用者が意識しなくても必要なデータをデバイス側で自動的に保持できるため、メンテナンス性の高いスマートヘルス機器の設計に大きく寄与します。
まとめ
脈波センサ技術は、近年のウェアラブルデバイスや医療機器の発展とともに急速に進化しています。その中で、不揮発性メモリの活用は、データの永続的な保持や省電力化を実現するための重要な技術的要素となっています。特にFRAMやMRAMといった新世代NVMは、高速・高耐久・低消費電力という特長から、センサの性能を最大限に引き出す鍵として注目されています。今後も、センサとNVMの融合による高信頼・高効率なシステム設計がますます求められるでしょう。
本記事の要点整理
本記事では、脈波センサの基本原理から最新技術動向、不揮発性メモリの技術概要、さらには両者の統合による具体的ユースケースまでを解説しました。PPGやMEMS圧力式など多様なセンサ方式と、不揮発性メモリの種類・特長を理解することで、より高効率で高信頼なデバイス開発が可能になります。また、設計時に考慮すべき保存対象データや電力制約、動作タイミングなどの設計ポイントも明確になったかと思います。
今後の技術発展と課題
今後、より高精度なバイタルセンシングを実現するためには、センサ感度の向上だけでなく、ノイズ対策や信号処理技術の高度化が必要です。また、不揮発性メモリについてもさらなる微細化・高密度化が進む中で、耐久性や信頼性をどう維持するかが課題となります。加えて、セキュリティ面でもNVM内の情報保護や暗号化対応が求められるなど、統合設計上の配慮が不可欠です。産業界と研究機関が連携し、これらの課題解決に向けて取り組む必要があります。
製品設計への応用展望
脈波センサと不揮発性メモリの融合は、医療・ヘルスケア・スポーツ・介護などさまざまな分野において、スマートで信頼性の高い製品開発を可能にします。たとえば、自己診断機能を持つセンサモジュールや、ユーザー毎の設定を自動復元する機能など、高付加価値な機能を小型デバイスに実装することが容易になります。今後は、AIと連携した自律的センサシステムや、エッジコンピューティングとNVMを組み合わせた省電力解析技術が鍵となるでしょう。
RAMXEEDが提供するFeRAM製品一覧
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