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アナログ機能の中にメモリを混載するASIC設計の実践と設計思想
アナログ機能を持つASICにメモリを混載する設計手法について、基本構造や設計上の課題、回路干渉の抑制技術、応用例までを詳しく解説します。高精度と高機能の両立を目指す設計者に役立ちます。
アナログASICと混載メモリ設計の基本
アナログASICにおけるメモリ混載設計では、電圧や電流といったアナログ信号処理の高精度性を確保しつつ、状態管理や制御を担うデジタルロジックやメモリを同一チップ内に統合する必要があります。高集積化による小型化や消費電力の最適化が可能になりますが、アナログ特有の感度の高さが設計上のハードルとなります。
アナログASICとは何か
アナログASICとは、アナログ信号処理に特化したカスタムICであり、汎用オペアンプやディスクリート構成では実現しにくい要件を満たすために開発されます。主にセンシング、信号変換、電源管理などの用途に用いられ、リアルタイム性や高精度が求められる環境に対応します。近年は、単体のアナログ回路だけでなく、制御ロジックやインタフェース回路、さらには状態保存のためのメモリを同時に含めた構成が増加しています。
なぜアナログ回路にメモリを混載するのか
アナログASICにメモリを混載する主な目的は、制御情報やキャリブレーションデータ、センサ補正パラメータなどをオンチップで保持し、システム全体の応答性と独立性を高めることにあります。特に電源遮断時にも情報を保持したい場合や、外部通信に頼らず自己完結型で動作させる必要があるシステムでは、組み込みメモリが有効です。また、回路のチューニングデータを製造段階で書き込み、出荷後に維持するような用途にも最適です。
アナログとメモリ統合における基本設計思想
アナログ回路とメモリを同一チップに統合する場合、ノイズ干渉の最小化、電源・グラウンドの分離、レイアウトのゾーニングといった物理設計上の配慮が不可欠です。アナログブロックは高感度であるため、デジタル制御やメモリアクセスに伴うスイッチングノイズが性能に影響を及ぼす恐れがあります。そのため、論理配置、ガードリング設計、クロック・リセットの配線設計などを段階的に評価し、アナログ性能を損なわずに統合する設計思想が求められます。
混載メモリの技術と設計課題
アナログASICにおけるメモリ混載技術は、機能集約による利便性を高める一方で、アナログ信号への影響を最小限に抑える高度な設計判断を要求します。特に、搭載するメモリの種類や書き換え特性、プロセスとの整合性に加え、ノイズや電力供給、温度特性なども慎重に検討すべき要素です。
メモリの種類と統合方式(SRAM/フラッシュなど)
アナログASICに混載されるメモリには、主にSRAM、フラッシュ、eFuseなどの不揮発性メモリが用いられます。SRAMは高速アクセスが可能で、一時的なデータ保持に適していますが、揮発性であるため電源断で内容が失われます。一方、フラッシュメモリやeFuseは不揮発性で、設定値の保存や工場出荷時の調整情報の保持に適しています。またFeRAMもCMOSプロセスと親和性が高いためアナログASICに混載が可能であり、SRAM並みの高速アクセスが可能なのにも関わらず不揮発性メモリの特長を持つので、混載のような搭載メモリ種が限定される場合は有効な選択になります。メモリの選定は、用途だけでなく、搭載するCMOSプロセスとの親和性や面積効率、書き換え回数の制限など多面的に評価されるべきです。
混載時の課題(ノイズ、電源、熱)
アナログ回路とメモリを同居させる際に最も注意すべきなのは、ノイズ干渉です。デジタルロジックやメモリアクセス時のスイッチング動作が発するノイズは、感度の高いアナログ回路に誤動作を引き起こすリスクを孕んでいます。これに加えて、メモリセルの書き換えやリフレッシュ動作に伴う電源電流の変動や、発熱による温度ドリフトもアナログ回路の動作に影響を与える可能性があります。これらの課題を抑えるには、電源供給の分離、適切なデカップリング、熱シミュレーションなどの工夫が欠かせません。
配置・レイアウト上の工夫と対策
レイアウト設計では、アナログブロックとメモリブロックを物理的に隔離することが基本です。可能であればアナログ部とメモリ部で別の電源・グラウンド系を設け、ノイズの伝播を抑制します。さらに、ガードリングやシールドパターンを活用し、クロストークの発生を防ぎます。クロックラインや信号線は最小限に抑え、敏感なアナログノード付近を通過させないよう注意が必要です。また、温度勾配による影響を考慮し、発熱源からの距離や熱伝導経路も慎重に設計することが推奨されます。
アナログASIC設計における実践的ノウハウ
混載設計では、アナログとデジタル、さらにはメモリが協調して機能する必要があるため、個別の技術だけでなく、それらの相互作用を深く理解した設計アプローチが求められます。実装段階で発生する予期せぬ干渉や、プロセスばらつきによる性能変動を想定した堅牢な設計が不可欠です。
回路ブロック間の干渉抑制手法
アナログとメモリ回路の干渉を抑えるためには、複数の手段を組み合わせることが効果的です。代表的な方法には、物理的な分離配置、ガードリングの導入、デジタル部のクロック制御の最適化などがあります。また、レイアウトレベルでの対策として、ノイズ源と被害回路の間にグランドプレーンを挿入することで、高周波ノイズの伝播を遮断する手法もよく用いられます。これらは設計段階だけでなく、シミュレーション段階から意識して設計に反映する必要があります。
シミュレーションとモデル化の重要性
実際の動作環境を再現したシミュレーションは、混載設計において不可欠です。特にアナログとメモリが近接して配置される場合、それぞれのブロックの電気的特性だけでなく、相互干渉を正確にモデル化する必要があります。タイミング解析、電源インテグリティ解析、ノイズマージン評価など複数の解析手法を適用することで、製品リリース前のリスクを最小限に抑えることができます。現代のEDAツールでは、これらを統合したシミュレーション環境が整っており、設計段階から積極的に活用することが推奨されます。
実際の応用例と設計パターン
例えば、圧力センサICでは、アナログ信号処理回路の出力をキャリブレーションし、その係数をオンチップフラッシュに保持する構成が一般的です。また、電流センサICでは、測定レンジやゲインの切り替えパラメータを組み込みSRAMに格納し、リアルタイムで読み出して制御に用いる設計もあります。これらの応用例に共通するのは、アナログ信号の処理精度を確保しながら、柔軟性や使い勝手を向上させるためにメモリが活用されている点です。設計パターンとしては、アナログ前段+制御ロジック+小規模メモリという構成が基本となります。
アナログASICにおけるメモリ混載設計の要点と今後の展望
アナログASICにおけるメモリ混載は、高性能化・小型化・高信頼性の要件を同時に満たすための重要なアプローチです。一方で、設計上の制約も多く、回路設計・レイアウト・検証を一体で考えることが求められます。アナログ信号の精度を損なわずにメモリを統合するには、ノイズ抑制や電源分離などの基本技術を正しく活用し、複数の要素を総合的に最適化する設計思想が必要です。
アナログASICにおけるメモリ混載の利点
混載メモリをアナログASICに組み込むことで、外部回路への依存を減らし、信号の精度と処理の高速性を両立できます。また、構成が自己完結型になるため、信頼性やセキュリティも向上します。さらに、製造段階でのキャリブレーションデータの書き込みや、使用環境ごとのパラメータ最適化も可能になり、製品の性能や柔軟性が飛躍的に向上します。特にセンサ応用においては、環境変動への自動補正など、オンチップメモリによる利点が明確に発揮されます。
設計時に押さえるべきポイント
設計段階では、メモリの選定、配置、電源構成、ノイズ対策など複数の要素が密接に関係します。特に、アナログ性能を犠牲にしないレイアウト、ノイズ抑制、信号干渉対策は重要です。また、EDAツールを活用した事前シミュレーションやモンテカルロ解析によって、設計の堅牢性を高めることも欠かせません。設計者は、アナログとメモリが協調する動作を正しく理解し、最適化する姿勢が求められます。特に電源・グラウンドの設計、タイミングマージンの確保は混載における根幹となります。
今後の応用と展望
今後、センサフュージョンやエッジAIなどの分野では、アナログフロントエンドと処理系の高度な統合が進むと見られます。これに伴い、アナログ信号処理とメモリの統合設計はますます重要になります。特に、低電力動作や小型モジュール化へのニーズが高まる中で、アナログASICにおける混載メモリの技術は、機能性・コスト・信頼性の面で大きな優位性を持つと期待されます。また、製造後のパラメータ変更や現場でのリコンフィギュラビリティ(可変性)への応用も進展する可能性があります。
FeRAM搭載アナログASICの設計・開発サービスについて
https://www.ramxeed.com/jp/products/asic-assp/