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PIM(Processing-in-Memory)とは?次世代メモリ型演算の基本と応用
PIM(Processing-in-Memory、またはIMC:In-memory computing)はメモリ内に演算機能を統合し、従来アーキテクチャのボトルネックを解消する次世代技術です。AIやビッグデータ分野で注目されるPIMの仕組みと利点、FeRAMやReRAMとの連携可能性、主要企業の取り組みを技術的に詳しく解説します。
目次
PIM(Processing-in-Memory)とは何か?
PIMの定義と背景にある課題
PIM(Processing-in-Memory)は、メモリ自体に演算機能を持たせることで、プロセッサとメモリ間のデータ転送を最小化し、処理効率を大幅に向上させる技術です。従来のアーキテクチャでは、CPUとDRAM間で頻繁にデータを移動させる必要があり、これがボトルネックとなっていました。特にAIやビッグデータなど膨大なデータを扱うアプリケーションでは、メモリ帯域の制限が処理速度を制約しており、この問題を解消する新たなアプローチとしてPIMが注目されています。
従来アーキテクチャとの違い
従来のコンピュータアーキテクチャでは、演算処理はCPUやGPUが担い、メモリはデータの保存と読み出しを担当します。この分離モデルは設計が単純で汎用性が高い一方、大量のデータを頻繁に移動する必要があり、電力消費や遅延の増加を招きます。PIMはこの構造を根本的に見直し、メモリ内部に演算機能を組み込むことで、メモリ内での処理を可能にします。その結果、データ移動を最小限に抑えつつ高い処理性能を実現することができます。
PIMの分類とアーキテクチャ例
PIMには大きく分けて「ロジックインメモリ型」と「ロジックニアメモリ型」の2種類があります。前者はメモリセルと演算回路が物理的に統合されており、処理効率は高いですが設計難易度が高くなります。後者はメモリの近傍に演算回路を配置することで、従来の製造プロセスとの親和性を保ちつつPIMの利点を活用できます。具体的な実装例としては、SamsungのHBM-PIMやUPMEMのRISC-VベースのDRAM内処理ユニットなどが挙げられます。
PIMの技術的特徴と利点
データ転送削減による性能向上
PIMの最大の特徴は、データ転送回数の削減による処理性能の向上です。従来のアーキテクチャでは、CPUとメモリ間のバス帯域が制約となり、大規模なデータ処理では処理速度が大きく制限されていました。PIMでは、演算処理がデータの近くで行われるため、バスの混雑を回避し、処理レイテンシが低減されます。これにより、AI推論や画像処理、科学技術計算など、データ集約型のアプリケーションで特に大きな効果が期待されます。
消費電力の最適化と省エネ効果
メモリとCPU間での頻繁なデータ移動は、多大なエネルギーを消費します。PIMでは、メモリ内部または近傍で演算処理を行うことで、このエネルギーコストを大幅に削減可能です。実際、SamsungのHBM-PIMでは従来の処理方式に比べ、最大70%の消費電力削減を実現したとの報告があります。省電力性は、特にバッテリー駆動のエッジデバイスやデータセンターにおいて重要なファクターであり、PIMはそのニーズに適合する技術です。
スケーラビリティとリアルタイム処理能力
PIMアーキテクチャは、演算ユニットを多数のメモリセルに分散配置することが可能であり、高いスケーラビリティを実現できます。これにより、大規模なデータセットを並列かつリアルタイムに処理する能力が向上します。また、データが物理的にメモリ内にとどまることで、キャッシュミスの発生が少なくなり、予測可能な処理時間を得やすくなります。これらの特徴は、リアルタイム性が求められるロボティクスや産業用IoTにも適しています。
PIMの応用分野と関連メモリ技術
AI/機械学習分野での活用事例
PIMは特にAIや機械学習分野での適用が進んでいます。これらのアプリケーションでは、大量のパラメータや重みデータをメモリ上に保持しながら繰り返し演算を行うため、データ転送コストが深刻な課題となります。PIMを活用することで、各種推論処理や学習アルゴリズムをより高速かつ省電力で実行できるようになります。GoogleやNVIDIA、SamsungなどはPIMを活用したAIアクセラレータの研究開発を進めており、今後さらに活用が広がると予想されます。
FeRAMやReRAMとの親和性と可能性
FeRAM(強誘電体メモリ)やReRAM(抵抗変化型メモリ)は、不揮発性と高集積性、低消費電力という特長を持ち、PIMアーキテクチャとの親和性が高いメモリ技術です。FeRAMやReRAMをPIMの記憶媒体として用いることで、電源オフ時にもデータを保持しながら、必要な処理を直接実行できるため、エネルギー効率の高いエッジAIやIoT用途に適しています。特に、センサーデバイス内での前処理や、データフィルタリングのような軽量処理においては、ReRAMベースPIMの採用が有効です。
主要企業・研究機関の取り組み
PIM技術の商用化に向けて、半導体業界の主要プレイヤーや大学研究機関が積極的に取り組んでいます。SamsungはHBM-PIMとして量産に踏み切り、UPMEMはRISC-Vを組み込んだDRAMベースのPIMチップを提供しています。ルネサスエレクトロニクスもエッジAI向けにPIMチップの研究開発を進めており、国内外での活用例が増加中です。今後の標準化やインフラ整備と合わせて、技術の一般化が進むことが期待されています。
まとめ
PIMの本質と今後の展望
PIMは、メモリと演算の融合により、従来のコンピューティングボトルネックを根本的に解消する革新的なアーキテクチャです。AI、ビッグデータ、IoTといったデータ中心社会において、データの「移動」ではなく「活用」に焦点をあてることで、性能と効率の両立を可能にします。今後は、ソフトウェアツールチェーンの充実や、既存のプロセッサとの共存戦略の整備が重要な課題となるでしょう。
設計エンジニアが注目すべきポイント
PIM導入にあたっては、システム全体のアーキテクチャ設計、メモリの特性に合わせた演算手法、ソフトウェアからの制御性など、多角的な視点が求められます。特に設計エンジニアにとっては、従来の分離型設計との違いを理解し、メモリ選定やアクセラレータ構成の設計判断が必要です。また、FeRAMやReRAMのような不揮発性メモリとの組み合わせによる低電力・高効率なシステム設計は、今後の差別化要素となる可能性があります。
関連技術との比較と選定指針
PIMと競合または補完関係にある技術には、NVMコンピューティング、Near-Memory Computing、SoCベースAIアクセラレータなどがあります。それぞれの技術には得意な分野があり、適切な用途に応じた選定が必要です。たとえば、リアルタイム処理を重視する場合はPIMが有利であり、大規模学習用途ではGPUやTPUとの併用が効果的です。設計エンジニアとしては、アプリケーション要件と性能・電力・コストのバランスを見極めた技術選定が求められます。
RAMXEEDが提供するFeRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/feram-products
RAMXEEDが提供するReRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/reram-products/