topへ
FeRAMをもっと知る
FeRAMをもっと知る

FeRAMをもっと知る

2025.7.30

ETC車載器に搭載される不揮発性メモリの技術と設計ポイント

ETC車載器に搭載される不揮発性メモリの種類や特性、設計時の注意点、信頼性評価の方法を詳しく解説します。次世代ETCの技術動向も踏まえ、設計エンジニアに必要な知識を整理しています。

ETC車載器に求められる記憶装置の要件

ETC車載器は、自動料金収受という社会インフラの一部として機能するため、高い信頼性と耐久性を備えた記憶装置が求められます。特に、車載器のセットアップ情報や車両固有情報は一度記録された後も電源が遮断されても失われてはならず、そのため不揮発性メモリ(NVM)の採用が不可欠です。また、車載環境は温度変化や振動、ノイズの影響を受けやすいため、耐環境性能も重要な要素です。これらの要求に応じて、ETC車載器では信頼性の高いNVM技術が慎重に選定・設計されます。

セットアップ情報と車載器IDの永続保存ニーズ

ETC車載器には、セットアップ時に車両情報や登録情報が書き込まれ、それを車載器IDとともに内部メモリに保持する仕組みが備わっています。これらの情報は一度記録された後、通常は再書き換えされることがないため、長期間にわたり安定して保存できる記憶装置が必要です。この要件を満たすために、フラッシュメモリやEEPROMなどの不揮発性メモリが採用されています。特に公共インフラに関わるETCでは、セットアップ情報の喪失は通信不能や料金精算のミスに直結するため、NVMの品質と信頼性が極めて重視されます。

電源遮断時のデータ保持と再初期化制御

車載機器においては、キーオフやバッテリー脱着などで突然電源が遮断されることがあります。このような状況でも、ETC車載器が記録している情報が消失しないよう、記憶装置には電源断後も内容を保持できる特性が求められます。これに対応するため、NVMの中でも特にリテンション(保持)特性に優れる構成が採用されます。また、メモリ領域には万一の不整合が起きた際の初期化処理やエラーチェック機構が設けられ、起動時に整合性が確認されるよう設計されています。これにより、ETC車載器は常に安定した運用が可能になります。

セキュリティ・耐タンパ性とメモリの関係

ETC車載器は課金や認証に関わる装置であり、不正改造やなりすましを防止するためのセキュリティ対策が求められます。この観点からも、不揮発性メモリの選定は重要です。特に、書き換え防止や暗号化技術と連携し、メモリ内部のデータが外部から不正に取得・改ざんされない構造が求められます。一部の高信頼性NVMでは、タンパ検出時にデータを消去する「ゼロ化」機能を備えた製品もあり、ETCのような社会的信頼性が問われる用途で活用されています。セキュアメモリ領域の活用も含め、設計段階からの対策が重要です。

ETCに搭載される不揮発性メモリの種類と特徴

ETC車載器に搭載される不揮発性メモリには、情報の保持性、書き換え寿命、応答速度、コスト、安全性といった多様な要素が複雑に関係しています。代表的にはEEPROMやNOR型フラッシュメモリが使用されており、用途に応じてSRAMとの組み合わせ構成や次世代NVMの導入も検討されています。設計エンジニアはこれらの特性を踏まえ、必要な容量、書換頻度、温度範囲などの条件を整理しながら最適なデバイスを選定する必要があります。

EEPROM/フラッシュメモリの代表的構成

EEPROMやフラッシュメモリは、ETC車載器のセットアップ情報や動作ログなど、変更頻度が低くかつ電源断後も保持する必要があるデータの保存に広く用いられています。EEPROMはバイト単位での書き換えが可能な反面、書換回数に限界があり、設計時には書換頻度の最小化が必要です。一方でフラッシュメモリはセクタ単位の消去・書換により大容量を比較的安価に提供できる利点があります。ETC車載器では、書換頻度の高い一時情報はRAM、永続的な情報はEEPROMやフラッシュに保持する構成が一般的です。

SRAM+フラッシュのハイブリッド構成例

東芝が公開したETC2G対応車載器の構成では、高速アクセスが求められる一時記録領域にSRAMを使用し、バックアップ目的でフラッシュメモリと連携させるハイブリッド構成が採用されています。この構成では、SRAM上に蓄積された通信ログやイベント情報を一定間隔でフラッシュに退避する設計が取られており、電源断時にもデータ消失を防げる仕組みとなっています。また、アクセス速度と耐久性のバランスを考慮して、書換制御ロジックやエラー訂正機能も設けられています。

次世代候補:FeRAM/MRAM/ReRAMの可能性

不揮発性メモリ技術は進化を続けており、ETCや他の車載アプリケーションにおいても、次世代型NVMの導入が徐々に進みつつあります。例えばFeRAM(強誘電体RAM)は、書換速度が速く消費電力も低いため、頻繁なアクセスが必要な制御データの保存に適しています。MRAM(磁気抵抗RAM)はリテンション性能と耐放射線性に優れ、セキュアな車載用途への応用が期待されます。さらにReRAMは高密度化が可能であり、将来的にETC車載器の多機能化に応じて検討される技術の一つです。

車載用途における不揮発性メモリの設計・評価指針

車載用電子機器においては、信頼性と安全性が何よりも重要視されます。ETC車載器は運転中に常時動作し、電源のオンオフを頻繁に経験するため、不揮発性メモリの品質はシステム全体の信頼性に直結します。そのため、設計段階では動作温度、振動耐性、書換寿命、データ保持期間など、多岐にわたる要件を精密に評価する必要があります。これらの要件はAEC-Q100などの規格に基づいて検証され、試験済のコンポーネントのみが採用されます。

AEC-Q100に基づく耐環境・信頼性要件

車載用半導体部品の評価指針として広く用いられているのがAEC-Q100規格です。これは、自動車で使用されるICの品質・耐久性を保証するための標準化試験であり、不揮発性メモリもこの規格に準拠することが前提となります。ETC車載器では特に、長期使用を前提とした設計が求められるため、−40℃〜+125℃といった広範囲な温度環境でも動作が安定することが重要です。

データ保持・エンデュランス評価手法

ETC車載器に搭載されるNVMには、少なくとも10年以上のデータ保持性能と、10万回以上の書換耐性が要求されるケースが一般的です。これを満たすかどうかを判断するため、リテンション試験や加速寿命試験が実施されます。例えば、高温環境で一定期間放置し、内容が保持されているかを確認する「高温リテンション試験」や、繰り返し書換操作を行う「エンデュランス試験」があります。

誤動作対策とフェールセーフ設計

不揮発性メモリにおける誤動作は、ETC車載器の動作停止や誤課金といった重大なトラブルを引き起こしかねません。そのため、フェールセーフ設計の導入が不可欠です。具体的には、書込み中に電源が遮断された際のデータ破損を防ぐための「書込み完了検出」や、「電源監視回路(POR)」による書換禁止制御が代表例です。また、ECCなどのエラー訂正技術を併用し、万が一ビット反転が起きても正常データに復元できる構成が推奨されます。

まとめ

ETC車載器は社会インフラとしての役割を担う重要な電子機器であり、内部に搭載される不揮発性メモリ(NVM)には高い信頼性と耐環境性能が要求されます。セットアップ情報や車載器IDといった重要データを電源遮断後も安全に保持するために、EEPROMやフラッシュ、あるいはSRAMとのハイブリッド構成が採用されています。

ETC車載器におけるNVM採用の必然性

ETC車載器は、車両と料金所間の通信、本人認証、通行記録の管理などを担う複合的な電子装置であり、そのすべての処理においてデータの保持と再利用が求められます。たとえばセットアップ情報や車載器ID、利用履歴などは一度記録されたのち、繰り返し読み出されるものの、電源断や環境変化により失われてはならない重要情報です。このような要件に対応できるのは、電源が切れても情報を保持できる不揮発性メモリ(NVM)であり、その採用は設計段階で必須の前提条件といえます。信頼性・耐久性・安全性を兼ね備えたNVM技術は、ETCの安定運用に欠かせないものです。

設計者が考慮すべき技術要素の整理

ETC車載器に不揮発性メモリを組み込む際、設計者は単にデバイスの選定を行うだけでなく、システム全体における動作要件との整合性を見極める必要があります。たとえば必要容量やアクセス速度、書換頻度、リテンション期間、動作温度範囲、ESD耐性など、各種パラメータを満たすデバイスであることを確認することが求められます。さらに、NVMの使用方法によってはエラー訂正機能や冗長構成、フェールセーフ設計の実装も必要です。誤動作時の影響評価やユーザーへの影響範囲を考慮したリスク管理も重要であり、信頼性設計としての一連のプロセスを確実に進めることが、実用レベルの車載器設計において欠かせません。

将来のETCシステムとNVM技術の展望

将来的なETC車載器は、現在の料金収受機能を超えて、交通情報のリアルタイム処理や他車両・インフラとの通信(V2X)機能を担う高度な情報端末へと進化していくと予想されています。このような多機能化に対応するには、データ量の増加や処理速度の高速化、セキュリティレベルの向上が求められ、それに応じたメモリ構成の再設計も必要です。従来のEEPROMやフラッシュに加え、高速書換や高リテンション特性を備えるFeRAM、MRAM、ReRAMといった次世代NVMが注目されており、実用化も加速しています。設計者はこれらの技術動向を常にキャッチアップし、柔軟かつ拡張性の高いアーキテクチャを選択できる体制を整えておくべきです。

RAMXEEDが提供するFeRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/feram-products

RAMXEEDが提供するReRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/reram-products/

この記事をシェア

すべての記事を見る