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2025.8.14

MRAMは次世代インメモリコンピューティングの主役となるか?技術的可能性と課題を探る

MRAMは高速性と不揮発性を兼ね備えた次世代メモリとして注目され、インメモリコンピューティングでの活用が期待されています。本記事ではMRAMの原理や特徴、FRAM(強誘電体RAM、FeRAM)との比較、課題と今後の展望を詳しく解説します。

MRAMとは何か?―次世代不揮発性メモリの概要

MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)は、電源を切っても情報を保持できる不揮発性メモリの一種で、高速動作と高耐久性を兼ね備えています。従来のDRAMやNAND型フラッシュメモリの長所を併せ持ち、省電力性能にも優れるため、次世代計算機や組み込み機器での採用が期待されています。本章では、MRAMの動作原理、技術的派生形態、そして市場動向を解説し、なぜこの技術がインメモリコンピューティングに適しているのかを明らかにします。

MRAMの構造と動作原理:スピントルクを活用した記録

MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)は、磁気トンネル接合(MTJ)素子を利用して情報を保持する不揮発性メモリです。記録は電子のスピンの向きを制御することで行われ、電源を切ってもデータが保持されます。特にSTT(Spin-Transfer Torque)方式では、書き込み電流により磁化方向を反転させます。読み出しはトンネル磁気抵抗効果(TMR)を利用し、並列磁化と反平行磁化の状態で抵抗値が変化する特性を検出します。この構造は揮発性メモリの高速性とフラッシュメモリの不揮発性を兼ね備えており、次世代高性能計算や組み込み機器に適しています。

STT-MRAMとSOT-MRAMの特徴と進化

STT-MRAMは既に商用化が進み、組み込み用途やキャッシュメモリでの採用が拡大しています。SOT(Spin-Orbit Torque)-MRAMは次世代型で、書き込みと読み出しの経路を分離できるため、STT方式に比べ高耐久・低レイテンシ化が可能です。またSOT方式はスイッチング速度が高速で、書き込みエラーを低減できる潜在力を持ちます。研究段階では数ナノ秒未満の切り替え動作が報告されており、AI推論やリアルタイム制御向けのインメモリコンピューティング(IMC)用途において有望視されています。ただし、書き込み電流や集積度の最適化は依然として重要課題です。

MRAMの技術的メリットと市場動向

MRAMは高速性・耐久性を兼ね備え、DRAMやNANDに対する補完的役割を果たせます。特にDRAM並みのアクセス速度とフラッシュ以上の書き換え耐久性を持ち、不揮発性により待機時の電力をほぼゼロに抑制可能です。市場ではSamsung、TSMC、GlobalFoundriesなど大手が製造技術を確立し、組み込みプロセッサや車載制御ECU向け製品を展開しています。さらにAIアクセラレータやエッジデバイスへの採用を視野に、インメモリ型演算対応の試作が進行中です。2025年以降はSOT-MRAMの量産化や低コスト化が普及の鍵になると見込まれます。

インメモリコンピューティングに求められるメモリ技術

インメモリコンピューティング(IMC)は、従来のコンピュータ構造が抱える「データ移動の遅延」や「消費電力の増大」といった課題を解決するための新しい計算方式です。演算をメモリ内部で行うことで、CPUとメモリ間の膨大なデータ転送を削減でき、処理性能と省電力性を大きく向上させます。本章では、IMCの登場背景や動作の仕組み、そしてIMCが要求するメモリ技術の条件を解説し、MRAMがその要件を満たしうるかを検討します。

Von NeumannボトルネックとIMCの登場背景

従来のVon Neumann型コンピュータでは、CPUとメモリ間のデータ転送が性能の律速要因となる「Von Neumannボトルネック」が存在します。データ量が増えると転送遅延と消費電力が急増し、特にAI推論や大規模データ処理では効率が低下します。インメモリコンピューティング(IMC)は、演算をメモリ内部または近傍で行うことで、このボトルネックを解消しようとするアプローチです。メモリ上で加算・乗算・論理演算を実施すれば、データ移動を最小化でき、性能と省電力性を両立できます。新しい演算アーキテクチャの進化に伴い、不揮発性メモリが注目を集めています。

インメモリコンピューティングにおけるメモリの役割

IMCにおけるメモリは、単なるデータ格納媒体ではなく、演算処理の一部を担うアクティブな要素になります。従来のSRAMやDRAMでは演算回路を別途用意する必要がありましたが、MRAMなどの不揮発性メモリを用いれば、電源断後も状態保持が可能となり、タスクの再開や省電力モードからの即時復帰が容易になります。また、アナログ演算を直接セルで行うCIM(Computing-in-Memory)では、メモリの物理特性が演算精度や速度に直結します。結果として、メモリ素子自体の設計がシステム全体の性能設計における重要な決定要因となります。

MRAMはIMCの要件を満たすか?

MRAMは低レイテンシ・高耐久性・不揮発性を兼ね備え、IMCに求められる多くの要件を満たします。特にSOT-MRAMは高スイッチング速度と低エラー率を実現できる可能性があり、AI推論や信号処理などの高頻度アクセス用途に適しています。また、書き込み時の電力消費が他の不揮発性メモリより低く、エッジAIやIoT機器における電池駆動時間延長に寄与します。ただし、回路レベルでの実装には素子ばらつきやノイズ対策が不可欠であり、実際のCIMアーキテクチャとの最適なマッチングは今後の研究課題です。

MRAMの課題と技術的限界

高性能な不揮発性メモリという特長を持つMRAMですが、実用化に向けては依然として解決すべき技術的課題があります。特に、書き込み電流の削減、エネルギー効率の向上、スケーラビリティ確保、製造コストの低減は重要なテーマです。本章では、これらの課題を掘り下げるとともに、他方式の不揮発性メモリ、特にFRAM(強誘電体RAM、FeRAM)との比較を通して、用途ごとの適材適所の可能性を探ります。

書き込み電流とエネルギー効率の課題

MRAMの性能は高い一方、書き込み時に必要な電流量は依然として課題です。特にSTT-MRAMでは書き込みにビット当たり数十µA以上が必要となるケースが多く、低電力動作を追求する場合に制約となります。これにより、セルの微細化が進むと書き込み電力が相対的に増加する懸念があります。エネルギー効率の改善には、材料の改良や磁化反転メカニズムの最適化が不可欠です。SOT方式や電圧制御磁気異方性(VCMA)を活用する手法が研究されており、将来的には書き込み電力を大幅に削減できる見込みがあります。

スケーラビリティと製造コストの障壁

MRAMの微細化は、磁気トンネル接合層の厚みや結晶構造の均一性に依存します。プロセス制御が難しく、歩留まり低下や製造コスト上昇の要因となります。特に高密度化を図る場合、セル間の磁気干渉や熱安定性低下が問題化します。既存CMOSプロセスへの統合性は改善されつつあるものの、DRAMやNANDに比べると生産規模が小さく、コスト競争力で不利な面があります。量産化に向けては、大手ファウンドリによる量産技術確立と工程短縮が必要不可欠です。

FRAMとの比較:代替の可能性と適材適所の判断

FRAMは、極めて低い書き込み電力と高速アクセス、さらに10兆回以上の書き換え耐久性を誇り、低消費電力を求めるアプリケーションにおいて非常に魅力的な選択肢です。特にバッテリー駆動のIoT機器や産業用センサー、車載制御など、データ保持と高頻度更新を両立させる用途では、MRAMよりも効率的な場合があります。一方、FRAMは高密度化や大容量化に課題があり、ストレージ用途や大規模キャッシュには不向きです。MRAMはその分野で優位ですが、低容量かつ省電力が最優先されるシステムでは、FRAMの優位性が際立ちます。最適解は、用途に応じて複数種の不揮発性メモリを組み合わせたハイブリッド構成を採用することにあります。

まとめ:MRAMの今後とインメモリ時代の展望

MRAMは、次世代インメモリコンピューティング時代において有力な候補技術の一つです。市場での採用拡大を見据える上では、製造コストや回路実装の最適化など克服すべき課題は残りますが、その高速性・耐久性は大きな魅力です。本章では、業界の開発動向や将来の応用分野を整理し、設計エンジニアが実装可否を判断する際の基準、そして不揮発性メモリとインメモリコンピューティングの未来展望について考察します。

業界の開発動向と今後の技術進化

2025年現在、SamsungやTSMCをはじめとする半導体メーカーは、SOT-MRAMの量産化やIMC対応型MRAMの試作を加速しています。エッジAIや車載、IoT機器向けの低電力・高信頼性メモリとしての適用が拡大する一方で、書き込み電流や製造コストの課題克服が焦点です。材料開発や新しい磁化制御技術の導入により、さらなる高性能化が期待されます。

設計エンジニアにとっての実装判断基準

設計エンジニアは、アプリケーションのアクセス頻度、消費電力要求、耐久性要件を総合的に評価し、MRAM採用の可否を判断する必要があります。特にIMC用途では、演算精度やセルばらつきに対する対策を盛り込むことが必須です。また、既存メモリとの比較やハイブリッド構成の検討も有効です。用途に応じた最適解を見極める戦略的判断が求められます。

インメモリコンピューティングと不揮発性メモリの未来

IMCの普及は、メモリの役割を根本から変える可能性を秘めています。MRAMやFRAMなどの書込み性能が高い不揮発性メモリは、演算回路とデータ保存領域を融合することで、省電力かつ高性能なコンピューティング基盤を構築できます。今後は回路設計、アーキテクチャ、材料科学が密接に連携し、メモリ主導の計算パラダイムが主流になると予想されます。これら次世代の不揮発性メモリがその中心的役割を担えるかは、技術革新と産業界の採用戦略にかかっています。

RAMXEEDが提供するFeRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/feram-products

RAMXEEDが提供するReRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/reram-products/

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