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FeRAMをもっと知る
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2025.8.12

トグルMRAMとは?仕組み・応用分野と最新動向を解説

トグルMRAMの仕組みや特徴、FRAM(強誘電体RAM、FeRAM)やSTT‑MRAMとの違い、応用分野や市場動向を詳しく解説します。耐久性や放射線耐性の強みだけでなく、課題や置き換えの可能性も含め、設計エンジニアが選定の参考にできる情報を提供します。

トグルMRAMとは?(技術原理と歴史的背景)

トグル方式スイッチングの原理と磁界方式

トグルMRAMは、磁気トンネル接合(MTJ)を用いた不揮発性メモリの一種で、セル内の磁化方向を磁界で反転させる「トグル方式」によりデータを書き込みます。この方式は、特定の方向からの磁界パルスを順に印加することで、誤書き込みを防ぎながら安定したスイッチングを可能にしています。STT-MRAMのようなスピン注入電流ではなく外部磁界を利用するため、セル構造は比較的単純ですが、書き込み回路がやや複雑になる特徴があります。

初期製品と密度/性能仕様

初期のトグルMRAM製品は4Mbitや16Mbitといった非同期SRAMと同程度の容量で、非同期SRAM互換のパラレルインターフェースを備えていました。アクセス時間は約35nsと高速で、書き換え回数は実使用上は無限に近い特性を持ちます。一方で、プロセス微細化におけるコスト上昇や大容量化の難しさがあり、PCやスマートフォン向けの大規模市場進出は限定的でした。結果として、産業・軍需・宇宙といった高信頼性分野に特化したニッチ市場戦略が採用されました。

トグルMRAMの特長と技術的利点

不揮発性・耐久性(書き込み無限サイクル、20年以上保持)

トグルMRAMは、電源を切ってもデータを保持できる不揮発性メモリであり、書き換えサイクルに制限がほぼありません。一般的なフラッシュメモリが10万回程度の書き換え制限を持つのに対し、トグルMRAMは無限回に近い耐久性を誇ります。また、保持期間も20年以上と長く、メンテナンス不要で信頼性が高いため、頻繁なデータ更新が必要なシステムや、長寿命を求められる産業用機器に最適です。この長期信頼性は、他方式メモリとの差別化要因となっています。

温度・放射線耐性と産業用途での信頼性

トグルMRAMは広い動作温度範囲(-40〜125℃)をサポートし、宇宙空間や原子力施設など高放射線環境でも安定動作します。これは磁気記録の原理が電荷保持方式と異なり、放射線によるビット反転に極めて強いためです。この特性は軍需・航空宇宙用途において特に高く評価され、長期運用やメンテナンス困難な環境で重宝されます。また、揮発性メモリやフラッシュの弱点を補う形で、産業オートメーションや防衛機器に採用が進んでいます。

SRAM互換インターフェースと即応性

トグルMRAMはSRAMと同様のパラレルバスインターフェースを採用する製品が多く、既存設計に容易に組み込み可能です。アクセス速度もSRAMクラスで、リフレッシュ動作や初期化が不要なため、電源投入直後から即座にアクセスできます。この特性により、ブートコード格納やキャッシュ代替など、迅速な応答性が求められるアプリケーションで有利に働きます。さらに、消費電力が低く、スタンバイ時の保持電力が不要であることもシステム全体の省エネ化に貢献します。

FRAMとの比較と置き換え可能性

FRAM(強誘電体RAM、FeRAM)は不揮発性と高耐久性を兼ね備え、低消費電力かつ高速アクセスが可能なメモリです。特に低容量領域では製品ラインアップが豊富で、低電圧駆動やランダムアクセス性能に優れています。一方、トグルMRAMは長期保持や放射線耐性に強みがあるものの、磁界耐性が弱くモーター等に搭載された磁石に近づけるとデータ化けを引き起こす可能性があります。そのため、モーターを使う産業機器やEV(電気自動車)用途、低消費電力を重視する用途ではFeRAMが依然優位であり、トグルMRAMが置き換える事例は限定的にとどまると考えられます。

他のMRAM方式との比較:STT‑MRAM/SOT‑MRAMとの違い

書き込み電流・集積度の比較

STT-MRAMはスピン移行トルクを利用して直接セルの磁化を反転させるため、プロセススケーリングが容易で、高集積化に向いています。一方、トグルMRAMは外部磁界を利用するため、書き込み回路や配線の面積が比較的大きく、大容量化に制約があります。ただし、トグル方式はセルの安定性と確実な書き込み動作が特徴であり、耐久性と信頼性を優先するアプリケーションでは量産実績が少ないSTT-MRAMよりはトグルMRAMの方が依然有効な選択肢となります。

将来技術としてのSOT‑MRAM(toggle スキームの進化)

SOT-MRAMは書き込み速度と耐久性を兼ね備えつつ、STT-MRAMよりも高速で信頼性の高い書き込みが可能とされる次世代技術です。一部研究では、SOT原理を応用したトグルスキームの開発も進められています。これにより、従来のトグルMRAMが抱えるスケーリングや消費電力の課題を解消する可能性があります。とはいえ、商用化には製造コストや量産性の壁が残っており、今後数年は従来型トグル方式との併存が続くと考えられます。

市場動向と今後の展望まとめ

トグルMRAMの市場規模と成長率の予測

トグルMRAM市場は安定的に推移しているものの、成長率は限定的です。そのため、大容量需要の拡大には結びつきにくく、成長は産業・宇宙・軍需といったニッチ分野に留まる見込みです。市場調査でも、今後の年平均成長率は一桁台前半にとどまる予測が多く、広範囲な置き換えは難しい状況です。

主な製品・企業(Everspin, Honeywell 等)と事例

EverspinはトグルMRAMの最大手であり、航空宇宙・産業用途向け製品を供給していますが、市場全体の需要は限定的で、大手半導体メーカーによる大量投資は見られません。Honeywellなども宇宙・防衛分野向けに製品を提供していますが、いずれも高付加価値ニッチ市場に依存しています。このため、量産効果によるコスト低減は進みにくく、価格面で広範囲な普及を阻む要因となっています。競合メモリ方式との価格差も依然として大きい状況です。

設計エンジニアに向けた選定のポイントと今後の方向性

トグルMRAMはFRAM(FeRAM)と同様に高信頼性・長期保持・耐環境性が求められるアプリケーションにおいて優れた選択肢です。ただし、トグルMRAMの製品ラインナップが限定的であることから更なる大容量化や低容量品などの低価格化を重視する用途では選択肢になりえず、適材適所の判断が不可欠です。今後は、製造コスト削減や高集積化の技術革新が進めば、新たな応用領域に進出する可能性がありますが、当面はニッチ市場を中心に発展する形になると見込まれます。

RAMXEEDが提供するFeRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/feram-products

RAMXEEDが提供するReRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/reram-products/

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