IoT機器の時刻設計はどう変わる?ネットワーク時代にFeRAMが注目される理由
SRAMをなくしたにもかかわらず、なぜ電池が残るのでしょうか。
FeRAM(FRAM、強誘電体メモリ)に置き換えることでデータ保持のためのバックアップ回路は不要になります。それでもバックアップ回路を完全に廃止できない理由は、RTC(時計IC)があるからです。本記事では、IoT化の進展を前提に、時刻設計そのものを見直す視点から、この問題を整理します。
目次
常に動いている時計、その電源は?
時刻は常に保持するものという前提で設計されてきました。その前提自体が、設計の自由度を制約している可能性があります。そのために利用されるのが、リアルタイムクロック(RTC)、別名時計ICです。
32.768kHzの水晶振動子とセットで使用し、常に時を刻みます。ちなみに、この周波数を15回分周すると1秒が得られる仕組みです。腕時計を始め、私たちの身の回りにある時計は、同じ周波数の水晶振動子を使用しています。そして、時計の電源は電池です。
同様に、多くの電子機器においても電源としてリチウム電池が利用されています。主たる目的はSRAMのデータ保持用で、RTCはいわば付随的にバックアップされてきました。実質の消費電力はSRAMに比べると、RTCは10%程度で、それほど目立つ存在ではありませんでした。
FeRAM導入のインパクト
FeRAMを導入すると、まずSRAMが不要になります。その結果、バックアップ電源の負荷はRTCに集中します。消費電力で見れば、製品寿命を従来の約10倍に延ばすことも可能です。
しかし、たとえ僅かな消費電流であっても、時刻を刻み続ける限りバックアップ回路は廃止できません。そして、このバックアップ回路が意外と厄介なもので、設計者を悩ましています。できればFeRAM導入と同時に、バックアップ回路の廃止も検討したいと考えます。
バックアップ回路を無くす方法
では、このバックアップ回路は本当に必要なのでしょうか。設計上の選択肢は大きく2つに整理できます。
- バックアップを行わない(必要な時だけ時刻を同期する)
- RTCそのものを廃止する
いずれもシステム設計の根本的な見直しが必要ですが、IoT化はこの決断を後押しする大きな鍵となります。
【図解1:バックアップ回路の簡素化比較】

バックアップは本当に必要か
そもそもバックアップはなぜ必要なのかを改めて考えてみましょう。バックアップの対象になっているのは、SRAMとRTCです。SRAMはデータを保持しますが、FeRAMに置き換えることでバックアップは不要となります。
RTCは時刻情報を得るために、常に時計の動作が必要です。ですから、厳密にはバックアップではなく動作なのですが、その利点と欠点を検討します。
RTCを維持する利点とは
RTCをバックアップし続ける利点はなんでしょうか?
まずは、水晶振動子で保証された時刻情報を常に取得できることです。電子機器によっては、時刻情報を頻繁に利用するものも少なくありません。外部環境に一切依存せず、その製品内で完結した時刻情報を常に取得できます。
また、CPUの割り込み機能を使用すれば、システムの自動起動が可能です。インターバルタイマーとしての利用も容易となります。スタンドアロンで使用していて時刻情報を使う機器では、RTCは必要です。
RTCを廃止すると設計はどのように変わるか
デメリットはただひとつ、リアルタイムで時刻情報が得られないことです。ではメリットを検討します。
まず、リチウム電池、ダイオードなどから構成されるバックアップ回路が廃止できます。リチウム電池を交換可能にしている場合は、電池ホルダーも不要です。さらに、RTCの廃止も検討できれば、それに伴い水晶振動子、受動部品による発振回路も不要です。
そして、バックアップ回路廃止による製造コストの削減もできますし、実装するためのプリント基板面積の削減にもつながります。このような部分は、コストダウンに繋がります。特に、リチウム電池をプリント基板に直付けしている場合は、有効です。
システムの見直しはどこから着手すべきか
ネットワークに繋がるIoT機器であれば、時刻情報は起動時にNTP(Network Time Protocol)等から取得可能です。システムを見直し、RTCおよびバックアップ回路の廃止を検討してみましょう。
ネットワークとの接続をしないスタンドアロンの機器であれば、検討は2方向に進みます。1つは、時刻情報そのものが本当に必要なのかを見直すことです。データ保持が確実になれば、RTCからの時刻情報がなくてもシステム設計が成立する場合があります。
もうひとつは、ネットワーク接続による機能拡張です。たとえば、炊飯器や電子レンジのように時刻表示機能を持つ家電があります。これらは、IoT化によって起動時にネットワークから時刻情報を取得できれば、RTCを持たない設計も可能です。この場合、時刻情報はNTPなどのネットワーク時刻同期を活用できるため、RTCやバックアップ回路の見直しにつながります。
多くの電子機器はIoT化が進んでいます。FeRAMへの変更を、IoT化のきっかけにしてもよいでしょう。
RTCを廃止すると何が変わるか
FeRAM採用に伴うRTCの廃止は、すなわちリチウム電池の廃止でもあります。ここではこれらの部品を廃止した場合の影響を検討します。
製品寿命への影響
RTCは工場で製品を組み立てたときが、動作開始です。多くの場合、製造工場の工程で時刻設定が行われます。そして製品寿命は、電池寿命に起因することも少なくありません。ですから、実際の製品寿命は、工場での製造時点を起点として捉える必要があります。
製造後の輸送および倉庫での保管が長引く電子機器は、その分の製品保証をどうするかが問題となるでしょう。ユーザーは使用開始時期からの時間を考えるため、実体と乖離する現象が起きます。リチウム電池が廃止できれば製品寿命は格段に延ばすことができます。
【図解案2:製品寿命の概念変化】

輸送および保管中の動作
見落とされがちですが、輸送および保管中もRTCは動作を継続しているのです。32.768kHzのクロックが常に動き続けていることは、エンジニアとして認識しておきましょう。RTCを使わなければ、外部から通電しない限り、動作する回路は発生しません。
水晶振動子の精度
RTC用の水晶振動子の温度特性も見逃せません。室温では高精度ですが、低温あるいは高温で精度が悪くなります。輸送および保管中の温度環境によっては1か月に数分単位でずれることもあるようです。ネットワーク上の時刻情報の精度は非常に高く、ずれたとしても補正情報を取得できます。
メンテナンスフリーという付加価値
電子機器において、製品寿命を左右するのはリチウム電池です。リチウム電池を廃止できればメンテナンスフリーとなります。これはユーザーにとっても、設計者にとっても新たな付加価値です。
FeRAMの導入は、単なるメモリの置き換えにとどまりません。時刻を常時保持する設計そのものを見直す契機となります。
RAMXEEDが提供するFeRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/feram-products/