QSPIでXiPとリアルタイムデータロギングを両立させる方法
QSPIフラッシュでXiPとデータロギングを両立する設計手法を解説します。コードのRAM展開やFeRAMの活用によって、書き込み時の読み出し制約を回避し、安定したシステム構築を支えます。
QSPIとXiPの基本構造を理解する
QSPIは外部フラッシュと高速通信を行い、XiPでRAMを節約しつつ大規模コードを実行します。この根幹はコントローラによる「メモリマップド・モード」ですが、利便性の裏でCPUがバスを常時占有するため、フェッチ効率と周辺アクセスの競合制御が安定動作の分岐点となります。
QSPIとは何か?シリアルフラッシュとの接続方式
QSPI(Quad SPI)は、4本のデータラインを同期させて使用することで、従来のSPIに比べ4倍以上のスループットを実現する通信方式です。主に外部NORフラッシュとの接続に利用され、コマンド・アドレス・データの全フェーズを4線化することで、クロック周波数以上の効率的なデータ転送を可能にします。近年のマイコンは、このQSPIをシステムバスに直結するための専用コントローラを内蔵しており、ソフトウェアが意識することなく高速なメモリ読み出しを行えるよう設計されています。
Execute in Place(XiP)の技術概念と必要要件
XiPは、フラッシュメモリ上のコードをRAMへロードすることなく直接CPUがフェッチ・実行する技術です。これを実現するには、マイコン側のメモリコントローラが外部フラッシュのアドレス空間を、内部のシステムアドレスマップにマッピングする必要があります。CPUから見れば外部フラッシュは低速なROMとして認識されますが、この速度差を補うために、専用の命令キャッシュやプリフェッチバッファの最適化が、システムの応答性を左右する重要な鍵となります。
QSPI経由でのXiP実現における利点と制限
QSPIを用いたXiPは、システムの起動時間短縮やBOMコストの削減に大きなメリットをもたらますが、同時に「バス占有」という物理的な制約も生みます。コード実行が外部バスを経由するため、CPUが命令を読み取っている間は、他の周辺機能が同じQSPIバスを使ってデータを書き込むことができません。このため、データロギングのような書き込み処理を並行させる場合、単一のパスを奪い合うことによるパフォーマンス低下や、実行停止のリスクを考慮した設計が不可欠です。
リアルタイムデータロギングの実装と課題
ロギングは重要ですが、XiP環境では「実行中の書き込み」が物理的限界に衝突します。フラッシュは昇圧を伴う書き込み中、同一チップまたは同一バンク内の読み出しを拒む「Read-While-Writeの制約」を持つため、これを無視すると命令補給が断絶し、システムは即座にストールします。
リアルタイムデータロギングの定義とユースケース
データロギングとは、産業機器の稼働状態やIoT端末のセンサー値を時系列で保存し、障害解析や予兆検知に役立てる仕組みです。特に高頻度なサンプリングが求められる用途では、書き込みの遅延がデータ欠損に直結するため、ファイルシステムやバッファリングの効率が問われます。QSPIフラッシュを保存先に選ぶ場合、大容量かつ低コストという利点がある反面、書き込み動作がシステムバスに与える影響を無視することはできません。
QSPIフラッシュへの書き込み処理と制約事項
QSPIフラッシュへの書き込み(Program)や消去(Erase)は、読み出しに比べて圧倒的に時間がかかる処理です。また、多くの一般的なフラッシュメモリには「書き込み・消去中は、同じチップ内のどの領域からもデータを読み出せない(Read-While-Write不可)」という物理的な制約があります。この制約下でロギングを行うと、書き込み命令を発行した瞬間にXiPによる命令フェッチがブロックされ、CPUが即座にハードフォールトを起こす危険性があります。
ログ保存とXiPの同時動作に潜む競合リスク
XiPとロギングを共存させる際の最大の課題は、この「読み書き競合」によるシステムのハングアップです。ログを1バイト書き込むだけでも、フラッシュ側が「Busy」状態になれば、その間CPUは次の命令を読み取ることができません。キャッシュにヒットしている間は動作を継続できますが、キャッシュミスが発生した瞬間にシステムが停止します。これを回避するには、単なるソフトウェアの工夫だけでなく、メモリ配置やハードウェア特性を活かした回避策が必要となります。
XiPとデータロギングを両立させる設計戦略
両機能を安定して共存させるには、物理的な衝突を回避するレイアウト設計が不可欠です。フラッシュメモリの制約を「実行コードのRAM展開」といったソフトウェア手法で回避する方法もありますが、デバイス選定そのものを最適化し、FeRAM(強誘電体メモリ)の「高速書き込み」特性を利用することで、設計難易度を根本から引き下げることが可能になります。
クリティカルコードの内部RAM配置と領域分離
最も確実な対策は、ログ書き込みルーチンや重要な割り込みハンドラを、フラッシュではなく内部RAMに配置することです。コンパイラのセクション指定を用いて、書き込み中に実行される可能性のあるコードをあらかじめRAMに展開しておくことで、フラッシュがBusy状態であってもCPUは動作を継続できます。これにより、ロギングによるXiPの一時停止を防ぎ、システム全体のリアルタイム性を確保することが可能になります。
FeRAMの採用による「書き込み待機」の根本的解消
フラッシュ特有の物理的制約を打破する最も簡単な解決策は、QSPIインターフェースを持つFeRAMをログ保存先に採用することです。FeRAMは消去サイクルが不要で、バススピードでの高速上書きが可能なため、書き込み中もデバイスが「Busy」状態に陥ることがありません。これにより、XiPによる命令フェッチを妨げることなく、リアルタイムなデータロギングを完全に並行実行でき、複雑なRAM配置設計を大幅に簡略化することが可能になります。
ファイルシステム設計とデータ保全のベストプラクティス
ソフトウェア面では、電力遮断に強いファイルシステムの採用に加え、書き込み頻度を抑える戦略が有効です。フラッシュを使用する場合はRAMバッファに蓄積して一括書き出しを行う必要がありますが、寿命の長いFeRAMであれば、バッファリングを最小限にした即時記録も現実的です。ウェアレベリングの負担を減らしつつ、データ整合性を保証するジャーナリング機能を組み合わせることで、長期的な信頼性と安定稼働を両立させることができます。
QSPIを活用した効率的なシステム設計
「止まらないシステム」には、物理制約を考慮したマッピングや、FeRAM等の高速不揮発メモリの導入が有効です。ソフト的なウェイト制御とハード特性を活かした負荷分散を統合し、命令実行の連続性とデータの即時記録という相反する要件を高い次元で完結させます。
XiPとロギングを両立させるための要点整理
設計の核心は、メモリの「Busy状態」をいかに制御し、CPUの命令フェッチと衝突させないかに集約されます。フラッシュを用いる場合は、実行優先度の高いコードをRAMへ退避させる「ソフトウェアによる回避」が必要ですが、FeRAMを選択すれば物理層での衝突が解消され、設計コストを大幅に削減できます。リアルタイム性が最優先されるシステムでは、こうしたデバイス特性を理解した上でのアーキテクチャ選定が、開発期間の短縮と信頼性向上の両立に直結します。
設計時に注意すべき技術的課題と対処法
運用フェーズで注意すべきは、フラッシュ使用時の消去動作に伴うミリ秒単位のバス占有です。この影響を避けるために、書き込み頻度を平滑化する制御やガベージコレクションのタイミング設計が重要になります。一方で、FeRAM導入時も容量の制約やコスト面での検討は残るため、プログラムコードは安価なフラッシュ、頻繁なログ記録はFeRAMといった「マルチスレーブ構成」を検討することで、費用対効果の最大化を図ることが可能です。
今後の展望とさらなる最適化の方向性
今後は、ハードウェアレベルでRead-While-Writeをサポートした多重バンク構成のフラッシュや、大容量化が進むFeRAMの普及により、XiP環境下でのロギングはより身近なものになると考えられます。また、QSPIバスに高速なPSRAMを混在させ、ログの一次キャッシュとして活用することで、ストレージへの負荷をさらに軽減する手法も進化しています。これらの新機軸のメモリ技術を組み合わせることで、より高性能かつ堅牢な次世代の組込みシステムが実現されるでしょう。
RAMXEEDのQuad SPI対応 FeRAMファミリ
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