製品寿命の足かせを外す!電池寿命の計算から解放される設計思想
製品寿命は電池寿命に左右されます。しかし、電池寿命の計算は簡単ではありません。
その理由は、バックアップ用電池が使用されるのが、バックアップ回路の動作中だからです。つまり、製品の電源がオフになっている期間であり、その長さはユーザーの使用状況や設置環境によって大きく変わります。
製品寿命を見積もるために、製品を使っていない期間を想定するのです。この矛盾が、設計者にとって寿命計算を難しくしています。
こうした製品寿命計算の足かせを外す、新たな設計思想について解説します。
目次
バックアップ電流と電池容量で決まる製品寿命の理論値
組み込み機器の製品寿命は、多くの場合バックアップ電流とバックアップ電池の容量から計算可能です。産業用メーターやPOS端末、FA機器のコントローラーなどが代表例です。
これらの製品では、設定値や進捗状況を保持し続ける必要があります。そのため、SRAMのような揮発性メモリが広く使われてきました。
SRAMは電源を切ると、保持していたデータを失います。停電時や主電源オフ時にもデータを保持するには、工夫が必要です。そこで、リチウム電池のようなバックアップ電池でSRAMに電流を流し続けます。
こうした設計が、長年の定石となってきました。そして、製品寿命は、このデータを保持する時間(データ保持可能時間)と規定できます。
すなわち理論上は以下の単純な式で寿命が決まるはずです。
データ保持可能時間(h) =電池容量(Ah) / バックアップ電流(A)
たとえば容量200mAhの電池でバックアップ電流5μAなら、計算上は40,000時間すなわち4年以上の保持時間になります。
環境変化を考慮した寿命計算が設計者に課す負担
しかし実際のデータ保持可能時間は、この式どおりにはいきません。
バックアップ電池が稼働するのは、製品の電源がオフになっている間です。つまりそれは、製品を使っていない期間にあたります。
その長さは、設置環境やユーザーの使用状況によって大きく変わります。そのため設計者は、この分からない期間を見積もらなければならないのです。
さらに、環境温度や電池の自己放電も絡んできます。
温度変化によるバックアップ電流の増加
バックアップ電流は、温度条件によって大きく変動します。
SRAMのリーク電流は、高温になるほど指数的に増加します。常温では数μAだった消費電流が、高温環境下では一桁以上跳ね上がることも珍しくありません。
バックアップ電流5μAは常温(25℃)の場合であり、これが45℃では15μA、65℃だと50μAになることもあります。
電池の自己放電によるばらつき
バックアップ電池は、自己放電の現象が起こります。
保管期間や周囲温度に応じて、容量が徐々に低下していきますが、概ね年間1%減少するようです。
さらに、電池には製造ロットや電池メーカーの違いによる個体差があり、自己放電にはばらつきが生じます。
製品寿命を検討する
製品保証期間を設定するエンジニアは、これらすべてを踏まえた最悪値で計算しなければなりません。
先ほどの4年の理論値はあくまでも機器を全く使用していないときのバックアップ電池の寿命です。この値を製品寿命にするには無理があります。
そこで、その機器の稼働状況について一定の条件を仮定して、電池の寿命を計算します。
【バックアップ回路が稼働する時間】
- 出荷から稼働開始までを1か月とする。
- 稼働時間を5割とする。(夜間や長期休暇などに非稼働とする)
- 環境は厳しい条件を考えて、45℃とする。
- 自己放電は年間1%とする。
これよりバックアップ回路が稼働している時間を計算すると、以下のようになります。
- 稼働開始まで:720時間(24時間X30日)
- 稼働中(1年目):3960時間(24時間X30日X11か月X0.5)
- 稼働中(2年目以降):4320時間(24時間X30日X12か月X0.5)
- バックアップ電流:15μA(45℃)
ここで電池の容量を200mAhとするとリチウム電池の寿命は約3年となります。
以上は一例ですが、環境条件まで考えると、長期の製品寿命は期待できません。長くするためには電池容量の増加が必要となります。
以上はあくまでも一例であり、温度条件などの仮定は製品によって変えなければなりません。

電池寿命計算から解放される設計アプローチ
こうした負担から逃れるためには、視点を変える方法があります。これまでの対策は、電池や回路の性能を上げることに頼っていました。
しかし、そもそもバックアップ電池自体を無くしてしまえばどうでしょうか。
バックアップ電池をそもそも不要にする発想
バックアップ電池が必要なのは、SRAMが電源オフ時にデータを失うからです。
逆に言えば、電源を切ってもデータが消えないメモリを使えば、バックアップ電池そのものが不要になります。この発想に基づく選択肢が、不揮発性メモリへの置き換えです。
FeRAMによる寿命の制約要因の除去
具体的には、SRAMの代わりに不揮発性メモリであるFeRAM(FRAM、強誘電体メモリ)を採用します。
電源オフでもデータが保持されるFeRAMを採用すれば、バックアップ電源回路は不要です。結果として、設計工程から寿命計算の手間を完全に排除できます。
電源オフの期間が予測しづらく、長期間のメンテナンスフリーが求められる産業設備や車載機器において、この置き換えは大きな効果をもたらすでしょう。
さらに、ノイズや電源変動への耐性が高いのもFeRAMが持つ優れた特性です。データの信頼性が製品価値に直結する分野において、まさに最適な選択肢です。

電池レス化が高める製品信頼性と保証の確実性
電池レス化によって得られる本質的なメリットは、コストの話ではありません。
電池容量や環境条件のばらつきを含めて不確実な工程を、設計プロセスから排除できることこそが最大の価値です。そして、保証期間の設定に、頭を悩ませる必要がなくなります。
市場での電池切れトラブル、あるいは電池の交換やリサイクルといった保守・環境面の負担もなくなります。
ここで重要なのは、計算を楽にするのではない点です。目指すのは、計算をしなくてよい状態にすることです。
製品寿命の足かせとなっていた電池寿命計算から、設計そのものが解放されます。これは製品の信頼性を質的に高める、設計思想の転換だと言えます。
RAMXEEDが提供するFeRAM製品一覧
https://www.ramxeed.com/jp/products/feram-products